6年の歳月をかけて。

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9月21日。台風が迫る中、北海道のニセコを訪れた。

スキーのメッカのイメージがある一方、赤土土壌が広がり、根菜類が美味しくなる土地柄で知られ、じゃがいもの名産地として名を馳せている。

お正月に欠かせない、ゆりねも根菜であり、ニセコは一大産地。

ニセコ訪問の目的は、りょくけんトマトの生産者である坪井さんからご紹介いただいた、ゆりねの生産者さんにお会いすることだった。

まず、坪井さん宅に行き、それから車で一緒に向かった。

「ここじゃねえな。」

「ここがあいつの家だから、左手に向いて、ここの畑だと思ったけどな。」

「じゃがいもの収穫で忙しいからな、何度も電話するのも悪いしな。」

何度か行ったり来たりし、携帯で連絡を取り合った後、ようやく、ゆりねの生産者 増原さんの畑にたどり着いた。

もう夕暮れも間近だった。

今年の北海道は天気が悪く、じゃがいもの収穫期になっても、なかなか畑に入れずにいた。雨と雨の間のわずかな晴れた日に、トラクターを入れ、収穫していた。濡れた畑にトラクターを入れれば、粘りのある土が車に付着し、前に進まないのだ。

自分が訪れた日は、明日、台風が上陸する、という報道はあったものの、まだ晴れていた。貴重な収穫の日だったのだ。

トラクターの手を止め、増原さんが奥のじゃがいも畑から、こちらに歩いてきてくださった。

「おお、悪いな、忙しいのに。」と坪井さんが言う。

「いやあ、何、もう(じゃがいもの収穫も)終わるから。」と素朴に答える増原さん。

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「ゆりねの栽培がどんなに大変か、教えてやってくれよ。」と坪井さんが増原さんに促した。

まず、ゆりねは、年月がかかる。増原さんは3年周期で考えている。毎年、植えては掘り上げ、別の畑に植え替えていく。3年かけると、十分な大きさになり、商品として出荷が可能になる。

「3年かかるんですか。」

「いや、正確に言うと、6年かな。」

3年かけて育てたゆりねの株の中から、特に良いものを種としてとっておき、それを植え付けて、さらに3年かけて大きくしていく。3年+3年。足かけ6年かけて育て上げる。

「その間に、病気にかかると大きくならねえんだ。虫が入ってもいけねえ。だからああやってネットをかぶせて、害虫が入らないように、種芋は育てている。」
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「それでも、ほら、そこの葉なんか、葉先の色が変わってるだろ? あれは病気になってる。こいつはもう大きくならない。」

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長い栽培期間の間に、害虫や病気にやられないよう、細心の注意が必要。ゆりねが高値で取引されるのには、ひとえに、そんな二つの理由がある。

「でも、やっぱりなんかあの、ほっくりねっとりした食感に、甘みとかすかな苦みが、うまいんだよなぁ。」

増原さんが遠くに視線を送った。

「じゃ、俺、収穫に戻るわ。明日は台風らしいからな。」

「あ、忙しい中、ありがとうございました!」

一通り、説明してくださった後、増原さんは作業に戻った。

その場で、しばらく坪井さんと話し込んだ。

蝦夷富士と呼ばれる羊蹄山がきれいだった。

「坪井さん、なんか、羊蹄山の山際が赤いんですけど、大丈夫ですかね?」

「?」

「木が切られて、土の色が見えているんですかね?」

「うん、そうだな。」

そう言っている間にも、どんどん赤くなっていく。

夕焼け。

いわゆる、赤富士だった。

「おお、こんなの見るの初めてだ。」

蝦夷富士 羊蹄山の、見事な景色だった。

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作業に戻る前、増原さんが、もうひとつ、良いことを教えてくださった。

「ゆりねは、正月よりも、それから2か月くらい貯蔵したものの方が美味しいんだ。揚げものにしたり、バター焼きにするとうまい。」

ゆりねは、文字通り、ゆりの根。でんぷん質の塊だ。貯蔵することによって、でんぷんが糖化し、甘みが増す。

最需要期は過ぎたが、まだまだ楽しみな季節野菜だ。

■ゆりね 北海道産 増原さん 1株 350円前後

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