北斗(ほくと)。

「そういえば、今年は、肥料はどうしたんですか?」

「今年もやってないですよ。」

2年ほど前からか、りんごの食味が落ちたのではないかと、感じていた。
奈良岡さん自身も食味の劣化と、果肉の硬さが落ち、日持ちも悪くなっていることを感じていた。

そして、その原因を"多肥"にあると考えていた。

だから、昨年より畑を肥やす肥料は一切与えず、米ぬかなど、pHを調整し、土質改良になるものだけを畑に入れるようにした。
結果は如実に現れており、果肉の硬さが戻ったし、日持ちもよくなった。

「今年の出来としてはどうなんですか?」

「うーんいまいちかな…。」

「え~」と、奈良岡さんの率直な意見に、若干不満を持ちつつ、思い当たる節もある、と思った。

「でも、分からないでもないです。北斗の実が少し柔らかくなったような気がします。」
北斗。見事な蜜入り。

北斗は、陸奥という大きなりんごと、フジの掛け合わせと言われ※、蜜も良く入り、大玉で、ジュース分も多い。
多くのりんご農家が、その味を認め、「北斗は一番うまいりんご」と口をそろえる。

でも、広がらない。
そして、どんどん減っている。

その、最大の理由が、芯カビ病と名づけられた生理障害だ。

マグネシウムやカルシウムなど、微量栄養素が不足すると、発生してしまう。
芯の部分が、黒く変色し、ふわっと糸状のものが形成される。
これが、カビに見えてしまい、「傷んでいる」というご意見を頂戴してしまうのだ。

おりしも、奈良岡さん自身も、前日に、お客様らクレームをいただき、なかなかご納得していただけず、往生したそうだ。

「で、北斗は切っちゃいました。」

「え?」

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※最近になって、北斗の親はフジ×印度ではないか?と言われています。印度りんごは陸奥や王林の親に当たります。

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