海の見える丘の上で。

「ここも、倒れたままだな。」

台風で倒れたままのビニールハウスの目の前には遮るものも大してなく、一気に傾斜して、海になっている。
そこまですべて、赤土。

「これは素晴らしい。」

りょくけんが理想とする立地だった。
南西向き、赤土土壌、緩やかな傾斜地は水はけも良い。
海は、風がそのミネラルを土地に運び込み、さらに病気や害虫の繁茂を防ぐ。

倒壊したままのハウスを前にしてかなり不謹慎だが、そう思った。

「お、いたいた。」

ビニールハウスは連棟で、3連棟のハウスが三つぐらい並んでいた。
手前のハウスは半壊していたが、奥のハウスはある程度無事で、トマトがきれいに植わっていた。
ただ、ビニールハウスのドアは壊れたまま。
もう直さずに、取り除かれていた。

その、畝の奥に、もう一枚ドアがあり、人がいた。

植わっているミニトマトの仕立てはなかなか良く、名古さんが進めるので、一つ二つ食べた。

11月から12月にかけて、トマトの味は底辺。
気候的には、九州から沖縄にかけて、この時期に合わせて育てれば、味の作りこみができる。
ところが、昨今は、灯油の値段が上がり、ビニールハウスは持っていても、加温しない。
また、植え付けの時期である8~9月に台風がやってくるので、ある程度、台風が過ぎてから、植え付けを始める。
そうすると、台風がいつ来るかによって、作りこみが間に合わず、11月~12月に間は味が乗り切らない事実がある。
綺麗な礫状の赤土。

「美味しいー。」

トマトの味は底辺のはずのこの時期。
でも美味しかった。

「糖度は7度アップくらいですけど、味が濃いですね。」

名古さんは先に歩を進めていて、奥のドアの向こうの人とすでに話していた。

「忙しい?」
「ビニール貼ってルよー。」
「忙しいとこ、ごめんね、東京からお客さん連れてきた。」

お客さん=私のことである。

「初めまして、りょくけんの大森です。」
「おお、りょくけんさん?いつも名古さんから野菜を買ってくれてありがとう。」

ビニール越しではあるが、バンダナを頭に巻き、ぴっちりしたスポーツウェアを着込み、体つきも良いのが分かった。

「義山です。」とぺコンとあいさつしてくださった。

「義山さんですか!?」

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