薄暮の風早農場。

見知らぬ突然の訪問者である私に、こんなに骨を折っていただいて、まったくもって恐縮だった。

一人目はつながらず。
二人目もつながらず。
そして三人目。

しばらくコールが鳴った後、つながった!

「悪いねー忙しいとこ。ちょっと聞きたいんやけどね。わしもここらへんにある、というのはなんとなく聞いたことがあるんやけど、無茶々園の畑はここいらにあるかねえ?」

―どうやら分かったようだ。

「わかった、わかった。ここをまっすぐ行くと三叉路になるから左に進んで、しばらく行くと看板が、たしか”今治”と”のまうま”の二つがあったからそこを進んで、こう曲がった道を行って、川があるから。そこを行って杉林を過ぎたら右に入っていくと、また杉林があってそこに開けた畑がある。」

辿り着ける自信がない。
表情から悟ってくださったのか、「紙ある?ちょっと地図を書いてあげる。」
「あります、あります。」
「ここをこう行って。ここがこう曲がっているから。そこをこう行って…ちょっと細いけど、舗装はしてあるから。」

詳細な地図を描いてくださった。
感謝しかなかった。

農家さんに、と思っていた手土産の弊社ジュースを渡し、御礼をして、畑に向かった。

なかなかの細い、曲がりくねった道のり。

15分ほど、不安になりながらも車を進めると、確かに右に行く細いけど舗装された道があった。
杉林を越えた途端、目の前が開け、豊かな自然に囲まれた、山の斜面を生かした広大な畑が目の前に広がった。

「ここだ!」

赤土の斜面で、曲がりくねった農道があり、有機的な曲線を描いたいくつもの畑が、そこにあった。

「これはすごい。」

イノシシなどの獣害もあるのだろう、すべての畑は柵に囲まれており、おいそれと中には入れない。
絶対に人ではない足跡もあった。

日も完全に沈んでいる。
薄暮の中、さすがに誰一人として、働いている様子の方はいなかった。

ただ一人、興奮して畑を回った。

有機栽培、あるいは有機JAS認証を得るためには、30m以上の”緩衝地帯”が必要だ。
他の慣行栽培の畑で散布される農薬の影響を避けるためだ。

ここならば、それが可能だ。

なるほど、ここに来るまでが大変だけれど、これならば、有機栽培も可能だし、山の斜面だから、水はけも寒暖差もあって、美味しいものがとれるだろう。
そう思った。

ふと、携帯電話が鳴った。

会社からだった。

「川田さんが何時に来るのか~?って電話が来ています。電話できそうですか?」

山の中を走っていたので、私の携帯電話がつながらなかったようだ。
もう少し畑を見て回りたかったが、辺りは真っ暗になっており、さすがに車に戻って、川田さんに電話した。
さすがに暗くなり、フラッシュなしの撮影も厳しくなってきた。

「おい、いまどこにおる?」
「今、まだ北条です。」
「そないなところにおるのか!?じゃまだまだ先だな。おいちゃん待っとるけ。八幡浜に着いたら電話してくれ。」
「はい、すみません、20時ごろになると思います。」

次に向かうのは、八幡浜(やわたはま)。
愛媛みかんのメッカだ。
夜中に八幡浜に入り、朝早くからみかん畑を回る心づもりだった。

真っ暗の中、エンジンをかけ、ライトをつけて、暗闇の中をまた走り出した。

再度、会社から入電。

「川田さんからまた電話がありまして。『飯は食ってくるな。』だそうです!」

あら。
それは恐縮だ。。。

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