三浦半島の先っぽで4。

青木喜一さん。

今でこそ、青木農園の会長的な存在だが、まだまだ現役。
現社長で、娘のキミさんも、まだまだ頼りにしているし、青木農園の精神的支柱だ。

「お~にぎやかだなあ。元気じゃん。」

男子四人が畑やその周りで走り回っているのを見る喜一さんの目は、好々爺そのものだった。
農道に敷き詰められた砂利の石が気になってしかたない愚息たち。
上の3人は、私が「やめなさい。」と言うのも聞かず、土手に向かって掘り出した石を投げつけている。
そのうち、大きな石を掘り出すのに夢中になっている。

四男は石を拾っては喜一さんに少しずつ渡していく。

愚息たちの名前には、喜一さんの”喜”の字が全員つく。

しばらくの間、5人は輪になって石を囲い、くつろいでいた。

「ハウス倒れちゃいましたね。」
「おお、見たぁ?」
「はい、さっき。」
「まあ、でも業者に頼めば、補助が出て、直してくれるらしいからさ。良かったよ、自分でやらないで。」
「あ、ご自分で直すつもりだったんですか!さすが”百姓”ですね。」
「おお、そうだよ。でもなんだかんだ忙しくてさ。申請するのにも、証拠が必要で、そのままにしておいて良かったよ。」

百姓は百のことができる人のことを言う。
農家はなんでもできる。

「そういえば喜一さん、背中とか骨折したって聞きました…。大丈夫ですか?」
「おお、骨盤ね。トラクターから落っこちてね。骨盤がきれいに折れて。でもおかげさんで、安静にしていれば良くて、手術も何もしないで一か月で退院。」
「え~?そういうもんでしたっけ、骨折って?」
「肋骨を折るのと一緒でね。そのままの場所にあったから、くっつくのを待つだけで、安静にしてたよ。その代わり一か月の間、暇でね。」
「へえ~」

そういえば、キミさんも喜一さんの事を“鉄人”なんて、その時のことを言ってたっけ。

「おいくつになったんですか?」
「71。」

かちこちの顔や手の肌は、それ以上の年齢を感じさせる。
ギラギラしていた大きな目も、どことなく弱々しくなったと感じた。
愚息たちの前で、優しい目をしていたからだろうか。。。

「おやじがね、74歳で死んだからね。おれもあと2~3年だ。」
「いやいやまだまだですよ!」

少し切ない。

「次行くぞ!」
号令をかけて、次の場所に移動を試みる。

「みて、大きな石!」
「よし、掘り起こそう。」

ちっとも言うことを聞かないので、四男だけ腕に抱えて移動した。

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