にんじんが育ちたいように育てる。

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6時間10分…。

網走、と聞いて、何を思い浮かべるだろう? ―監獄?―流氷?―遠い?

中富良野町から車でどのくらいの時間がかかるのだろう?と北海道出張のルートを検索していたときだった。やっぱり遠い。車で6時間10分かかるとGoogle MAPは計算してくれた。

顔と顔を知った中で商売はしたい。少なくとも、農家さんとはそうでありたい、と自分は思っている。 少々、難儀なコースだが、頑張っていくことにした。この9月からのにんじんを託した一戸さんの畑は、正確に言うと網走郡美幌町にある。

旭川市街に入る前に、東に進路をとり、しばらく何もない道を行く。 大きな畑が終わり、ようやく町が見えると、そこは北見。大都会だった。ほどなく、大都会の風景が終わると、なだらかな丘陵地帯になる。 豊かな緑が広がり、牧草地や畑が広がる。にんじん、ごぼう、ながいもなど。そこが、網走郡美幌町だ。 「網走」というと、一般的には網走市で、こちらはむしろ、美幌町(びほろちょう)という名前で認識されている。

早く着いたので、少し足を延ばして、その網走に向かった。 近い気でいたが、そうでもなかった。

だが、そこで、待っていてくれたのは、青空だった。今回の出張の中で、初めての青い空。

北海道は広い。

約束の時間が迫っていたので、感慨に浸ることもなく、すぐに道を引き返し、再び美幌町に向かった。

なぜか青空はどんどん狭くなっていき、美幌についたころには、遠く東の空に雲の切れ間が見えるだけになってしまった。

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「ここは、ちょうど、北見と網走の間でね。どちらに行くにも車でちょうど30分くらいのところにある。天気も、ちょうど変わり目の位置にあって、今、上空でせめぎあいをしているところだね。」

一戸さん。大柄で、きれいにひげを整え、髪の毛は黒々としている。いかにも豪快な印象を受けた。

あの、繊細なにんじんを作っているのが、この方―。

18歳で就農し、いわゆる原料農業(小麦やてん菜など)を行っていたが、30歳くらいのとき、畑を”壊してしまった”のだという。

「結局、毎年、土を掘り返すでしょう?そしたら、良くないものが地表に出てきてしまったんだろうね。本当に作物ができなくなってしまった。それを、自分では、畑を”壊した”と言っています。」

そこで、自然に存在する土壌菌を使った完熟堆肥を自分で作るようになり、畑が良くなっていったのだという。今では所有する40haすべてにその堆肥が入っている。

「完全に転換してから、今年で20年目かな。」と目を細める。

「じゃあ、畑に行きましょう。」しばらく話した後、畑に向かった。

「××に乗っていきましょう。」と一戸さんが言う。

××?あまりよく聞こえなかったが、「ハイ!」と答える。

かくして乗り込んだのは、マイクロバスだった。畑をマイクロバスで回るのは初めてだった。

「さっき、『バスに乗っていきましょう』っておっしゃったんですねっ」

畑は、バスにのってすぐのところにあった。

畑の脇、というか真ん中の広いスペースに、黒い山がある。

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「これが、うちの堆肥。」というと、手で中腹のあたりを掘りだしてくれた。もうもうと白い煙が立つ。

「中に手をあててごらんよ。」

「あつっ」

「70~80度くらいはあるかな。」

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堆肥は聞こえが良いが、下手に作ると、畑をダメにしてしまう。微生物の働きを活発にし、成分を細かくしてあげる必要があるのだ。完熟する過程で、熱を持つ。そうやって時間をかけて完熟させた堆肥は、動物系の臭さがまったくない。

広大な畑で、にんじんを2~3本掘ってくれた。

「そのまま食べてみてください。」

慣れたもので、土付きで食べた。あの堆肥であれば、食べてもお腹は壊さない気がしていた。

にんじんの香りが強く、口に入れてすぐは、それほどにんじんの味がしないが、噛むほどに味がしてきた。

「今はやりのベータリッチとか向陽2号ではないから、味はそれほど強くないけれど、香りがあるでしょ。」と一戸さん。

それよりもなによりも、土が土臭くない。じゃりじゃりしないのが驚きだった。

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「しかしきれいなにんじんですね~。」

「そう?」

「だって、農薬とか何も使っていないんですよね?よくこんなに姿かたちも整って、肌もきれいにできますね。」

「にんじんをにんじんが育ちたいように育てれば、普通にそうなる。」 と一戸さん。

「あと10年くらいすれば、この畑も虫もにんじんになれて、勝手にできるようになる、って信じてるよ。」と豪快に笑う。

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「除草剤を使わないことを是としている、って言ってたね。」

「ハイ。」

「俺からすると、すべての農薬の中で、もし使えるなら、除草剤だけは使いたいよね。」

意外な言葉だった。

「だってそれだけ、手間だもん。」と続く。

「このバスは、何のためだと思う?」

「分からないです…。」

「人夫さんたちを移動させるためだよ。」

「…。」

「うちでは、年間のべ1200人から1400人の方を、除草のために採用しているからね。」

―聞いてはいけないことを聞いてしまった気がした。

帰り際、「こんなに遠いところまで、わざわざ来てくれてありがとう。消費者の方に、きちんと伝えて、販売してくださいね。」と見送ってくださった。二人の息子さんとともに。一戸農場の前途は洋々だ。

女満別の空港に向かう間、にんじんのほかに、畑で食べさせてもらった、泥つき&生のごぼうの味を思い出していた。アクがなく、果肉が白く、やわらかくて、甘い。きちんと生長した大振りのごぼうなのに、あのやわらかさと味は、なかなかないなあ、と。

「あれも、譲っていただくよう、また話してみよう。」

やや顔がほころぶのだった。

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■網走のにんじん 北海道産 約500g 263円(税込)

■ごぼう 北海道産 約400g 399円(税込)

北海道フェア 10/21~31開催中

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