御縁。


陽豊柿という柿がある。次郎柿と富有柿を掛け合わせた甘柿である。
5年ほど前に、お取引先から依頼されて、探し回った。
岐阜県の知り合いの農家さんからヒアリングし、二つの産地を回った。
一つ目の産地は多くの農家で少しずつ栽培しており、農協が取りまとめていたこともあり、
私では組織できなかった。

2件目。余計な水分や肥料分が入らないように鉢で栽培すると言う。本巣の役所前で作っている人がいるとの情報。

柿の畑を見るたびに声をかけ、「陽豊、作っている方がこのあたりにいると聞いたのですが、ご存じないですか?」と聞いて歩いた。

3~4件目のときだ。「あのガソリンスタンドを回ったあたりに、水色のネットを張って、その柿を鉢で作っている人がいるよ。関谷さんとこやろ?」とやっと確かな情報をつかんだ。



その場所に行くと、確かに、大きな鉢が立ち並ぶのが見えた。

しかし当人がいない。

ご自宅の場所を近くにいた方に聞き出し、たずねてみると、お留守だった。ただ、インターフォン越しに、お母様と見られる方から、神事で神社に行っているとのこと。急ぎ、神社に向かった。

黒いスーツを来た方でごったがえしている。車もいっぱいだ。

少々気が引いたが、空気を読まずに、声をかけてみた。

「関谷さん、いらっしゃらないでしょうか?」

「おう、あそこにいる人だよ。」

間違いなく、忙しそう。。。

さらに空気を読まずに声をかけてみた。

「スミマセン…!」

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結局、その際には、肝心なことは話せず、電話番号だけ聞いてしょぼしょぼと帰った。「また来て」とのことだった。

2回目。日取りを約束でき、「こないだは悪かったね。今年は自治会長をやっていて、地域の神事をとりしきらなくてはいけなくて。」と対応していただいた。



一通り柿を見た後、「一件紹介したい方がいるんやけどね。その人の方がもっとおたくに合うかもよ。」とのこと。携帯ですぐに連絡してくださった。

「おう今どこおる?畑?今から行くわ。東京の銀座で売るんやって。紹介したいんよ。」

関谷さんのクラウンに乗り込み、5分ほど行ったところに、その人はいた。



関谷さんと同様の考え方で柿を栽培している。雨が降る6月~7月はビニールの雨よけも着けている。理論上、これは間違いなく美味しい柿ができる、と思った。

それが、小倉さんだった。



関谷さんも小倉さんも代々の柿農家だが、50前後までは、第一線で働いていたサラリーマン。

「引退して、柿の栽培はじめてね。ま、これがけっこう面白くてね。」と本当に、なんというか、ニヤリと楽しそうに笑う小倉さん。

「そっか、陽豊が良かったか。陽豊はやめちゃったなあ。でも太秋っていう柿、知らない?完全種無の甘柿で…」

「近くに(品種改良している)試験場もあって、ちょくちょく通ってね。豆柿っていう柿を植えてみたの。いや名前もまだないんだけど。興味ある?」


小倉さんが次々と話を続ける。だんだんと辺りも暗くなってきた。

「今回は、陽豊を目的に僕のところに来てくれたと思うんだけど、小倉さんこそ柿界のサラブレッドだから。」と、唐突に関谷さんが言った。

「?」

あれ、知らないの?という風に関谷さんが続ける。

「小倉さんとこには、富有の原木があるんよ。」

「え?」

太秋や、陽豊、次郎柿もあるが、甘柿の代表格は、なんといっても富有である。

次郎柿は、浜松に隣接する森町が原産。ただしその原木はすでに枯れたと聞いている。
富有柿については、全く知らなかった。そんな価値ある木がまだ残っているとは…!

「見たいです!え、ていうか実がなるんですか?」

愛車のクラウンに再び乗り込み、小倉さん宅に向かった。

住宅地の真ん中に、思ったよりも小ぶりの木が石碑とともにぽつんと残っていた。

「じいさんのときに、町※の天然記念物に指定されてね。10年位前にかれそうになったんだけど、植物学者さんやら市の職員さんが来て、なんとか樹勢を回復してね。毎年、小さいけれど実はなるよ。」

一見小ぶりに見えるのは、その際に病気になった枝を切り落としていったためらしい。また周囲が住宅地のため、あまり徒長させないように管理しているようだ。

「へえ~。で、美味しいんですか?」

「そうだねえ。樹齢150年くらいかな。普通の富有より、ちょっと美味しいかな?と感じれるくらい、と思ってもらえば。」



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原木の富有柿とは、そんな出会いだった。
小倉さんの太秋柿も豆柿も関谷さんの陽豊柿も、大変好評に毎年、販売させてもらっている。

そして今年2013年。

初めて、その、1820年から続く由緒ある古木の富有柿を販売することになった。すべての富有はそこから始まった、母木の柿。

いよいよ収穫も開始し、今週から通販を含む全店で販売開始。どんな評価を得られるのか、明日からがとても楽しみだ。


 数量限定。150玉程度の見込みです。シリアルナンバー付。

※本巣町が合併し、現在は瑞穂市(みずほし)となっています。

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