"日の丸"。

翌朝、6時半に起きて、荷物をまとめ、朝風呂というぜいたくにあやかった後、朝食を済ませ、ホテルの入口に向かうと、川田さんはそこで待っていた。
紺色の帽子をかぶり白い長そでのポロシャツ。

「おはようございます。お待たせいたしました!」
「お、もうええか?」
「はい、大丈夫です。」

白い軽バンには、奥様も同乗。

「ついてきて。」

軽バンについて行き、昨晩待ち合わせの八幡浜港の信号で右に曲がり、海が見えたところで、川田さんが道路脇に車を停めた。

「ここが、うちや。」と指をさし、倉庫のようなところに入って何かを取り出し、また車に乗った。
そこを過ぎてすぐ。
右手に"日の丸選果場"と看板が書かれた、シャッターのしまった倉庫があった。
中央から少し左のオレンジ色の屋根が選果場(現在は稼働していないらしい)。

八幡浜を付け根にし佐田岬を先端とする細長い半島。
九州・大分に向かって伸びるこの狭い半島に、日の丸、川上、真穴(まあな)という日本の三大ブランド産地が軒を連ねている。

俗に、"三つの太陽"があると言われ、この三つの産地は、共通してこの恩恵にあずかっている。
空からの太陽、海からの太陽光の照り返し、山の斜面に切り開かれた段々畑に築かれた石垣からの照り返し。
この三つが、ブランド産地を支える〝三つの太陽”である。

海沿いの道を進み、川田さんのご自宅を出発して10分くらい。
狭くなったと思ったら少し広くなったところで、川田さんは車を停め、私もそれに倣って車を脇に寄せて停めた。

山の斜面の全面にすべて、みかん畑が広がっている。

車を降りた川田さんが「ここだ。」と言ったので、私も車を降りた。

車を停めた道路わきの反対側の脇には、何やらレールが敷かれ、山の上へと続いている。

川田さんはそこに歩を進め、レールの上にある物体のカバーを、よっこいしょ、と取った。

姿を現したのは、みかん運搬用のトロッコ。
みかん農家御用達のモノレール運搬台車とでも言おうか。
山の斜面に築かれたみかん畑からみかんを山盛りに積んでトロッコで運ぶのだ。
正式な商品名は"モノラック"というらしい。

ちなみに、人は万一のこともあるので、乗ってはいけないことになっている。

「これに乗っていくから。」
「…え?」

コメント

人気の投稿