6月6日に向けて4

翌日、打診した農家さんから折り返しの電話があった。

が、店頭で接客中だった。
社長といえど、お店では販売員。目の前のお客様に集中しなくてはならない。
折り返し電話すると、留守電に切り替わり、つながらない。
もう一度、かけなおして、留守電に残すことにした。

夜、折り返しの電話があったが、またもや接客中。
ただ、今度は留守電が残っていた。

「6日の件だけどねぇ。今回は勘弁してくんねえかな。なんしろ急に温度が上がって、作業が押せ押せになっちゃって…。申し訳ないですね。」

それでも、また翌日に電話してみた。

つながらない。

でも留守電を残した。

「あまり長居しないので、30分くらい畑を勝手に見ますから…。」

その日はもうつながらず、翌朝、再度電話があった。

「すみませんねえ、何度も電話をいただいていたのに。ちょっといきなり忙しくなっちゃってね。直前まで頑張って、大丈夫そうだったら連絡しようか?」
「そうですかあ。。。今回は13名で行くので、バスを貸切るんですよ。行程も事前に伝えなくてはいけないので…。」
「13人!?今回はやっぱりパスかなあ。ごめんなさいね。」

東京もそうだったが、6月に入って急に気温が上がった。
生長が前進し、この短い期間に進めなくてはいけない作業がぎゅっと詰まってしまったのだ。
残念だが仕方がない。

ここは、やっぱり高橋さん!
ご自宅に電話すると、本人の家正さんが電話に出てくれた。
「はいぃ!」
でもやっぱり話が伝わらないので、息子さんにかけることにした。
「息子さんに直接かけますね!」

高橋さんの息子さんは3年前に、脱サラ。
いよいよ高橋名人の跡を継いだ。

が、大問題があった。

桃アレルギーなのである。

桃とぶどうの名人の家に育ったためなのか…。
高橋さんは方針転換して、桃の栽培継続をあきらめて、目下ぶどう栽培に注力していた。

「高橋さん、すみません、急なんですが、伺ってよいですか?」
「ああ、いいですよ。」
即答だった。
「本当ですか!ぶどうの作業、今、大変じゃないんですか?」
「大変。いきなり温度が上がったから。まあでも。」
「ありがとうございます。14時くらいにお伺いします。もし大幅に時間ずれるようでしたらまた電話します。」
「14時ね。わかりました。」

「お客さんがね、『高橋さん、こりゃあ本当にンマイ桃だ』って言って、訪ねてきてくれるのがね。嬉しいっちゅーこんでね。」
そういって笑っていた家正さんの顔を思い出す。

かくして、いよいよ6月6日のルートが決まった。
急ぎバス会社に連絡して、行程を確定させ、当日に備えた。

そうだ、手土産に特選トマトジュースと青島みかんジュースと葉とらずフジりんごジュースと、グレープフルーツジュースと雪の下人参ジュースの詰め合わせに、試作のパインジュースとブラッドオレンジジュースを入れて持っていこう!と思い立った。
そうだ、せっかく運転手さんがついた貸し切りバスなのだから、帰路はみんなで飲もう!!とビールも買いそろえた。

前日は早めに帰宅して次の日に備えよう。
私が遅刻しては元も子もない。

そう思っていたのだが…。
やっぱりそうはいかない。
色々やっていたら、やっぱり終電。
三田線の終電には間に合ったが、その場合、JRがぎりぎりのタイミングになる。
三田線の日比谷駅からJR東京駅まで歩くのだが、三田線が途中駅で他の都営線を待ち合せたりする。
が、JRはその調整は取ってくれない。

これはヤバい!

と思って走ろうとするが、手土産の3セットが重くて走れない…。
0時35分にJR京葉線の国際フォーラム口に改札まで来たが、終電は33分。
それでも遅れるときは遅れるので、駅員さんに
「終わっちゃいましたぁ?」と聞くと
「終わっちゃいましたよ。」と答えが返ってきた。

この時の脱力感たら、無い。

とぼとぼと登りの階段を再び上がり、地下通路の出口に私のような人を待って列を成すタクシーに乗り込んだ。

「新浦安駅まで良いですか。」
「えぇ???」
「シ・ン・ウ・ラ・ヤ・スっ」
「あ、新浦安駅ね。357走っていきますね。」

東京駅から自宅まではほぼ20分で着くのだが、コストは8000円を超える。

あそこで仕事を切り上げておけば…という後悔は先に立たない。

翌朝は、予測通りだったかもしれないが、やや寝坊してしまい、ビールと手土産と愛用のカメラとノートPCに押しつぶされそうで、走れず、乗りたかった5:56の電車に乗り遅れ、6時8分の電車になってしまった。
集合場所の新宿センタービル前にはぎりぎり7時に間に合った(と思う)が、私が一番最後だった。

貸し切りバスの運転手さんとご挨拶。

「あ、大森様ですか。今日はよろしくお願いいたします。」
「お早うございます!今日はどうぞよろしくお願いいたします!」

バスに乗り込むと、すでに全員着席、用意万端。
「じゃあ、まあ、出発しましょう!」

7:00 新宿発!

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