「全部、作り上げた形なんだよ。」
ピオーネ |
妻が言った。
ぶどう農家の若林さんが、ぶどうに掛かっていた袋をゆっくりと下におろすと、見事な形に仕上がったピオーネが現れた。
「あ、これはね。全部作りあげたものでね…」
若林さんを制するように、私が口走る。
「まだ小さいときから粒をカットして、この形になるように剪定してるんだよ。」
場所は、ぶどうの名産地として知られる勝沼(かつぬま)。
その中でも、少し標高の高い山の上にある山地で、”菱山”と言う地域だ。
平地の産地よりも1週間から10日間ほど遅く出荷が始まる。
今回も、例に漏れず、公私混同で、息子たちと妻を連れて、来てしまった。
「そうだよ、このツルの上のほうにも切きった跡があるでしょう?ここも全部切ってある。その後、粒と粒の間も、適当な長さになるように、二段おきくらいに粒はカットする。そうして、出来上がっていくのが、この形。」とにこやかに若林さんが言う。
電話ではしょっちゅうお話しているが、実際にお会いするのは、やっぱり7年ぶりくらい。
肌つやは変わらないが、すっかり髪の毛が白くなった。
若林さん。 |
「よく外国産のぶどうが、スーパーでパックで出てるじゃん。あんな感じにダダ伸びになるのが、普通なんだけれど、日本では手を入れて、形を整えるの。」
私が妻に解説すると
「そうそう。」
と若林さんが相槌を打ってくださった。
ずっしりと重いぶどうを目の前でカットしてくださり、息子たちにそれぞれ持たせてくれた。
今をときめくシャインマスカットと長男。 |
ピオーネを渡されて、「重い!」と思わず言う次男。 |
「重い!」と喜ぶ息子たち。
「食べてよいよ。」と若林さんに促され、それぞれ頬張った。
「おいしい!」
親の教育が悪く、いつもは食わず嫌いで、なかなか口にしなかったりするのだが、今回は順番に食べて、しかも良いリアクションだった。
「こんなもんかな?暑いから屋敷に戻りましょう。」
勝沼菱山のぶどうは、ちょうど今が盛り。
もっとも忙しい時期に来てしまった。
一通り見させてもらって畑から農道に出た。
子供たちは、畑を自由自在に走っていたが、ぶどう棚は収穫がしやすいように低く作られているから、少し背を曲げながら、歩く。
勝沼のぶどう畑。 |
外に出ると、眼下にきれいな景色が広がっている。
少し傾斜している畑だったから、そこかしこを走っていた息子たちは、汗びっしょりだった。
「ぶどう狩りやってる衆と違って、袋かけてるから、見栄えがしないんだけどね。袋とってあると、見事に見えるんだけど。」
「なんで袋をかけるんですか?」と妻。
「日焼け防止だよ。」と若林さん。
「ぶどうの肩のあたりが色が強くなって、商品価値が落ちるの。農薬かけるとき、袋があるほうが直接、房にかからないから、それも良いんだ。」
と私が補足した。
暑い暑い、夏休み最後の日曜日だった。
その後の台風21号で、僕らが見た畑は、ほとんどの房が落ちてしまったと言う。
それでも、風向きなどの関係で、なんとか残った房を現在出荷していただいている。
感謝して販売したい。
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