公私混同14。~同世代からの刺激4~

中野ファーム社長 中野 勝さん
「お待たせしました!すみません!」
コンパクトなアクアから次々と子供たちが下りてくるのを見て、勝さんは、ややぎょぎょっとした表情を浮かべた。
戸惑いながらも「お久しぶりです。」と笑顔で言う勝さん。
「すみません、仁木のベリーベリーファームでお世話になったことがあって、そのレストランで食べていたら、すっかり遅くなってしまいました。」

「ああ、だから服がソースで汚れてるんですね。」
三男に目をやりニヤリと笑う勝さん。

中野ファームは、10年ほど前に法人化した。

中野家はもともとさくらんぼ農家だった。
安芸さんのご紹介もあって、永田 照喜治が中野 勇さんのところを訪れて

「さくらんぼなんかやめて、トマトをつくりなさい。」

海からの風、水はけや日当たりの良い斜面、赤土土壌。

どれをとっても、トマトに理想的だ、と説得した。
勇さんは、その言葉を信じ、ミニトマト栽培を始めた。
ピークの時は、深夜2時まで選果や事務処理を行っていたのだという。

その背中を見て育った長男が、勝(まさる)さんだ。
法人化して、しばらくしてから就農。
ほどなく、勇さんから代替わりして、勝さんが中野ファームの社長に就いた。

りょくけんの人気商品である「特選トマトジュース」と「いちごトマト」、「ミディトマト」を作る。
正直言って、りょくけんにとって不可欠な農家さんだ。

山の中腹を切り開いた家の背後には、トマトのビニールハウスが立ち並ぶ。

坂道を登っていき、まずは、特選トマトジュースの原料となるトマトを拝見。

「ここも、あと一回とったら片付けようと思っています。」

「食べた~い」と無邪気に言う長男。

「いいよ、好きなだけとりな。」と優しくいう勝さん。

勝さんにもお子さんがいる。
たしか、何歳か年下だったと思うが、やっぱり7年ほど前に結婚され、二人の子宝に恵まれている。
だから、子ども扱いは手慣れたものだ。

「うまいっ」という長男の声とは別に、

「とーちゃーん~」と泣きわめく声が聞こえてきた。

次男は、ご機嫌斜めで、寒かったこともあり、車の中で待つと宣言していたのだが、寂しくなって出てきたようだ。
100mくらい離れたところだったので、次男には見つけられない。

名前を呼びながら向かうと、私よりもずっと先に、勝さんが見つけ出して、手を引っ張って連れてきてくれた。

「とーちゃーん~」

今度は長男と三男が、今いたハウスから飛び出て叫んでいた。

「三人は大変ですね。」

ぼそっとにこやかに勝さんが言う。

「う~ん。大変なようで大変じゃないような。。。一緒にいるのを楽しんでますし、どういうふうに育っていくのか楽しみなんです。」

通路を挟んで向かいのハウスにも進むと、大人気商品であるいちごトマトがあった。

「今年は、実は、初めて二期作にしたんです。」

「あ、だから今までできるんですね。」

「はい、そうなんです。」

「今年は特に、当たりはずれが本当に少なくて、(出荷)期間を通じて、食味が良くて本当に助かりました。味が良いと、量が増えても、お客様は買ってくださいますんで。」

「今年の夏は涼しかったじゃないですか。だから、色づきにかかる時間が長くて、ずっと日数かかって収穫になったので、味が安定してたんです。」

「でも、もうさすがにおしまいです。今週、来週で終わりになると思います。」

「え~ 山崎さんが11月末だって言ってますし、もう少し続きませんでしょうか。。。」

「いやあ、もう無理ですね。色がつかなくて。北海道はもう寒くて、、、夏からずっと涼しかったので、赤くなるまでの積算温度が、足りないんですよ。たくさんなっているようで、全然色が付きません。緑のまま収穫して、そちらで保管して色づかせるんでしたら、続けられますけど。。。」

一瞬、それもアリかも、と思った。
実は世界的に言って、もしくは数十年前の日本でも、トマトは青いまま収穫するのが一般的。
先進国のアメリカでは、そのまま保管して、出荷直前にエチレンを吹きかけて、赤く着色するきっかけを与えてから出荷する。
到着するころには赤くなる算段だ。

ただ、これは美味しくない。

でも中野さんのいちごトマトならあるいは、と思ったのだ。
トマトの美味しさの条件はいろいろとあるが、着色するまでにかかる時間も重要な条件のひとつ。
おおよそ、開花後60日かかると、いわゆるフルーツトマト=糖度8度くらいに仕上がる。
それが青いと、まだ酸味というか青臭さ、舌にぴりりとくるエグミがあり、あまり美味しくない。
試しに、まだ青いいちごトマトをとって食べてみる。

甘さとエグミが混然となっている。

これなら、赤くなる過程で、エグミ・酸味が抜け、美味しいものになるかも、と直感的に思ったのだ。

少し考えて、少しひるんだ。

「う~んやっぱりやめときます。でもお付き合いいただけるまでお願いします。」

「はい、それは大丈夫です。」

「あ~いちごトマトだ~」

私の家は、自社の野菜定期便もとっている。
いちごトマトはよく定期便に入ってくるので、このトマトの存在は、息子たちには身近だ。

特に長男は、自ら収穫して口に運んでいた。
食わず嫌いの三男も兄弟に連れられてか、パクっと食べて「おいしい!」と言う。

良い風景だ、と思った。

「おかげさまで、会社も二期連続黒字で。6月16日に店長もやっと決めて、そこから売り上げも良くて。ちょうど外国の方がまた増えてきたり、近くにギンザシックスがオープンして銀座へお越しになるお客様が増えたのも一因ではあるんですが。」

「それは良かったです。」

「ところで、ここに入ってくる前のところに、すごいものを建てちゃいましたね!」

「はい、ジュース工場です。わかりました?」

「わかりますよ~。今まで確か何にもなかったですもんね。」

「はい。」

「見れますか?」

「あ、見ます?」

「はい!でも時間大丈夫ですか?」

「あ、それくらい大丈夫です。」

にこっと嬉しそうな勝さん。

再び、坂を下りて、車を止めたところまで戻り、来た道を歩いて戻った。

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