公私混同6。~仕事の話をしたいんだけどなあ~

安芸さんの目は、どちらかというと細長い。
息子さんも安芸さんにそっくり。

紛れもなく、元延さんの奥様の、ぱっちりした目に似ている。

「うそうそ、誰もそういってくれない。」

困惑している私に、安芸さんがいたずらっぽく笑う。

「こどもたちはそのまま遊ばせて、コーヒーでも飲みながら少し話さないかい。」
休憩室的な軒先の、切り株で作った椅子に腰かけて、安芸さんと話をした。

「おかげさまで、二期連続の黒字になりました。」
「おお、それはあれだなぁ、経営者の努力だなあ。」
「あ、いえいえ。それで、9月1日に新入社員も入社してくださって。このご時世で本当に有難いことでして。それで少し余裕も出て、土日連休も初めてとれて、良し、じゃあ、北海道行こう!と決めたんです。」

息子たちはアンやローラと戯れながら、長男は何やら栗を割ろうと、どこからか剪定ばさみを持ち出してきていた。
安芸さんの奥さんに「その栗は虫が入ってるから。」と言われて、虫好きの血が騒ぎ、中の虫がどんなか、見たくて仕方がないようだった。

「購入いただいた社債も、来年1月にはきちんと償還できそうです。」
「大変だったね~。実際、どのくらい借り入れがあったとか、当時はわからなかったんじゃないの?」



私が会社を引き継いだ時。
借り入れはざくっと把握していたが、未払金もあったし、都民税、社会保険料、消費税など、実際のところ、どのくらい支払うべきマイナスがあるのか分かっていなかった。

あんな時に、安芸さんをはじめ、何人かの農家の方が社債を買ってくださったのは、本当に有難かった。

さらに言えば、日本政策金融公庫さんからの借り入れを決める面談の際も、取引先である農家さんがりょくけんの社債を購入しているという事実が、信用力につながり、また、取引先から信頼されている、あるいは必要とされている会社として評価につながり、借入が実現した経緯がある。

そこに感謝は尽きないのに、安芸さんは偉ぶることもなく、いつも対等に接してくださる。

「ねえ、とーちゃん。なに飲んでるの?」次男と三男がやってきた。

それを見て、安芸さんがりんごジュースを奥からもってきてくださった。

「おいしい!」

めったにジュースを飲ませていないので、彼らには特別なご馳走だ。

「みかんジュースの味がする。とーちゃん、飲んでみて。」
いや、りんごジュースだから、と思って一口飲むと、確かに少し酸味が独特で、みかんっぽい味がしないでもない。

まじめな話をしていたんだけどな。。。
気を取り直して、

「息子さん、だいぶがっしりしてきましたね。代替わりはされたんでしたっけ?」
「この2,3年でね。しようと思っているんだけれど、地域の「役(員)」とかもしててね。それが一通り済んでから、何もない状態で、(代替わり)しようと思ってるんだ。それこそ僕も年金もらう年にもう少しでなるからね。」

突然けたたましい音が鳴りだした。

「お、なんか見つけたな。」

騒々しかった息子たちが視界から消えており、安芸さんが向かったのは、トラクターなどがの重機がしまってある倉庫だった。

大きなトラクターが数台駐車されている前に、子供用のミニトラクターとフォードの青い車と、ハンマー社の三輪車があり、息子たちはそれに夢中だった。

青い車は、キーを回すとエンジン音がし、ヒップホップが流れる。
結構な音量で…。
得意げな三男。

トラクターもすごい。

Kubotaのネームが入っている、公式のミニトラクター。
ペダルをこぐと、前へ進む。

「これどうしたんですか?Kubotaの名前も入っているじゃないですか!」
「トラクター買った時のオマケでね。」と安芸さんがニヤリ。

Kubotaはイセキ、ヤンマーなどと並ぶ農業機器メーカー。
トラクターを購入したら、ついてきたのだという。

これはしまった。

きっとお孫さんのものだろう。

そして、私の目的は、りんごとささげの生育確認である。。。
zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz
「りんご見に行くよ~」と言っても聞かない…。
「栗拾いに山に行こう。」と安芸さんが何度か誘ってようやく納得したのか三台の車を倉庫にしまい、安芸さんの軽トラに乗り込むことにした。

「うんちした~」

次男がここで北海道に来てから二回目のマーキング…。

「安芸さん、すみません、ちょっと待っていただけますか…。」

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